白馬岳主稜

期 日:2023年3月11日~12日
参加者:Lなべたけ、しげちゃん、おんちゃん

3月11日(土)快晴
二股(7:15)-猿倉(9:00)-白馬尻(10:55)-幕営地(14:10)

2022年末の冬合宿(槍ヶ岳中崎尾根)の下山後、温泉から帰る時「次はどこの山に登るか」が話題に上った。百名山ハンターの私はいくつか未踏の山の名を上げたと記憶しているが、なべたけさんからは、「白馬岳主稜とか良いですよね。3月末辺りの雪が安定している時期に」と具体的な山の名前だけでなく、「主稜」という具体的なルート名を示された。白馬主稜といえば、山岳会に入る前に独学でバリエーションルートをやり始めた頃に「いつかは登ってみたいルート」として、心に思い描いたことがあるルートである。あの頃は、夢でしかなかったが今の自分たちなら、なべたけさんとなら行けるかも知れない。とはいえ、冬山のバリエーションルートは様々な条件が整わなければ行けるものでは無い。その時は「行けたらいいですね」と心のどこかに行けるわけはないという思いを残しながらの返事であった。2月に入り、毎週月曜日のクライミングジムで行われるリード、ビレイなどの岩登りの練習にも慣れて来た頃、なべたけさんから「そういえば白馬主稜はどうでしょう?」と再度オファーを受けた。「自分の今の技量で行けるのか?」と不安もよぎったが思わず「行きましょう!」と返事をしてしまっていた。

具体的に日程は週末、3月11日土曜日と12日日曜日の一泊二日で決定した。そこからは、ほぼ毎日白馬岳の天気予報と雪崩ネットワークのサイトと睨めっこである。積雪量はどうか?どのような間隔で雪が降っているかなど現地にいなくてもある程度の想像はできる。どんな雪が降ると雪崩ネットワークで雪崩確率が上がるのかを中心に情報を収集した。暁山岳会での雪崩のスペシャリストは、山スキーを毎年楽しむレー子さんである。レー子さんには、「3月の白馬岳は雪崩の巣。私なら行かない」と指摘を受けたが、あくまで「天候が安定し、雪崩の危険を最大限回避して危険が伴う際は山頂を目指さない」と約束して入山した。雪崩ネットワークは毎朝5時に更新ということだが、実際には6時ごろに最新版の情報が更新されるので、それも確認してからの入山とした。

あいにく前日に雪は降ったが量はあまり多くなく、雪崩ネットワークも要注意程度で、比較的安定していることを確認し、登山口へ向かった。登山口ではネット環境が手に入らないことを危惧したものだ。(その分出発が遅くなったことで、レー子さんからは「冬は早出早立ちが基本よ」と窘められた)
登山口は猿倉山荘までが通行止めであったため、手前の発電所付近駐車スペースに駐車したが、バックカントリーの登山客でほぼ満車であった。ネット環境も確保できたので、ここで情報収集しても良かったかもしれない。(ここまで雪なし)

二股登山口

なんとかスペースを確保し、7時15分頃に登山開始。林道は次第に雪が目立つようになってきた。路肩の斜面に張り付いていた雪は崩落し、林道にまではみ出しているものもあった。猿倉小屋まで2時間ほど歩いて到着。途中下山してくるスキーヤーにすれちがった。前夜山で過ごしたのか、朝から軽く登っただけなのかは不明だが、自分たちが出遅れていることを感じた。朝飯で一息入れてから、雪崩危険箇所については立ち止まらずにスムーズに通り抜けること。前後の間隔を空けて複数人の雪崩遭難を避けること。などを確認し手先へ進む。
白馬尻付近の沢に入るとまるでラッセル車が通過した後のような、雪崩痕の脇を抜ける。出会う沢は皆雪崩が合流している様に見える。快晴であること、足元の雪を踏めばまだしっかりと締まっている事から、緊張しながらも快適に先へ進むことができた。

白馬尻の雪崩痕

白馬尻には11時前に到着。いよいよ主稜への取り付きである。ソロの先行者があり、踏み跡に迷いはない。我々より1時間ほど先行しているので、安心して歩を進められた。がしかし、ここからの急登は、これまでがほぼ林道歩きだったために一気に疲労感が出てくる。少し残る樹林を巻き、尾根を目指す。尾根に上がる最後の急登を前にして、ふと顔を上げると先行者が下山してくる。話しかけてみると「この先踏み抜きで胸まで落ちた。危険と判断して下山」とのこと。午後に入り、雪もだいぶ緩んできているようだ。ここまでトップを歩かせてもらったが、この先の踏み跡も期待できず、踏み抜きもあり得るとなるとここは経験豊富ななべたけさんとトップを交代して、先に進んだ。ここから先は、幕営適地も探さなければならない。心配していた踏み抜きは、先行者が落ちた箇所のみで、無事に稜線まで上がれたが、その先は狭い稜線が続くので本日の幕営地を白馬主稜末端部の稜線上とした。時刻は14時過ぎ。

狭い幕営地

テントを設営していると近隣で雪崩音。音が山に反射してしまい、雪崩箇所は特定できなかったが、緊張感を途切れさせないのには十分であった。幕営地は、あまり広いスペースは取れなかった。両サイド切れ落ち、酒に酔ってトイレに行った拍子に滑落してしまいそうだ。今回の山行では、宴会を目的とはしなかったので、酒はそれぞれ軽く口に含む程度にした。食事後に今日が私の誕生日であることをおんちゃんが思い出し、なべたけさんとおんちゃんでバースディソングを歌ってくれた。記憶に残る誕生日となりました。様々な過去の話をしながら、泥酔滑落もなく19時前には就寝した。

3月12日(日)快晴
幕営地(3:30)-白馬岳(10:55)-白馬尻(13:30)-猿倉(14:35)-二股(16:30)

翌朝は2時起床。稜線上ではろくに食事も摂れないので、朝からテント内でしっかりと食べた。3時30分にはテントを撤収し、暗闇の中ビーコンのスイッチを入れる。風もなく空には月が明るく、星も綺麗だ。今日も天候は安定してそうだ。稜線では、経験豊富ななべたけさんをトップに、私が殿を務める形でおんちゃんを間に挟んだ。先行者は昨日敗退したが、全体的に一昨日のトレースが残っており、快適な稜線歩きであったが、途中吹き溜まりではラッセルもあり、なべたけさんに負担が大きくなると考えてトップと殿を交代したが、残念ながら私がビビってしまいあまり長くは続かなかった。

夜中の稜線歩き

このまますんなりと山頂まで上がれるかとも思ったが、白馬の雪形の岩場付近で岩雪ミックスの箇所があり、もう一箇所は山頂直下の詰め上げでロープを出した。スノーバーで確保しつつ、二番手おんちゃんはプルージックで上がった。

少し休憩

白馬主稜名物の巨大雪庇は今年は全くなく、最後3m程度詰め上げるだけで、あっさりと午前11時に山頂へ躍り出た。山頂には誰もおらず、冬特有の貸切の山頂を堪能した。相対する剱岳の毒々しさと立山の優美さがとても印象に残った。やり遂げた満足感で、おんちゃんはサングラス越しに感極まっているのを感じた。

白馬岳山頂

白馬山荘で風を避けて昼食をとり、いよいよ下山は白馬の大雪渓である。下山時は、沢の出会いに注意して、横からの雪崩にも十分注意し、時折自身の上方の雪の状態を確認しながら下山する様になべたけさんから指導されながら、一目散に下山した。昨日に引き続き今日も気温は高く、白馬尻までは気が気ではなかった。また、雪が緩みアイゼンに大きくまとわりつく。スリップすれば、大雪渓をシリセードかと思うとヒヤヒヤでした。降って行くと、白馬尻の手前で昨日には見えなかった雪崩痕を発見。恐らく昨夜の幕営地の隣の沢が落ちたもののようだ。デブリは1mほどのものもあり、改めて雪崩に恐怖した。

猿倉山荘へ戻ったのは、14時30分。昨日の行きとは雪の状態がだいぶ緩み、踏み抜き多く、既に体はヘロヘロであったが、お互いに励まし合いながら16時30分に登山口まで下山。林道では多くの山スキーヤーに追い越された。追い越しの際に声をかけてくれると助かるのだが、声もかけずに音もなく後方から追い抜いていくスキーヤーには辟易した。一度は危うく接触しそうになった。林道で雪が減り、少しでも長くスキーで降りたい気持ちはわかるし、斜度の弱い林道ではなるべく止まりたくないのもわかるが、声は掛けて欲しいものだ。

下山後は、麓で温泉に浸かって二日間頑張ってくれたカラダを労った。最後になりますが、安定したリードで終始落ち着いて先導してくれたなべたけさん、文句も言わずに力強く登ったおんちゃん。相模原から見守ってくれた見守り隊の皆様のおかげで安心して行ってくることができました。ありがとうございます。また、雪山について忌憚のないご意見やアドバイスを頂いたレジェンドよっしーさんやレー子さんにもとても参考になりました。ありがとうございました。

(記 しげちゃん)

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