カテゴリー別アーカイブ: 積雪期ピークハント・縦走

2024年春山合宿 北アルプス後立山連峰

爺ヶ岳(東尾根)~鹿島槍ヶ岳(赤岩尾根)記録:岩沢氷

 

5/2 前日は雨、3月の東尾根の取り付きの急登を思い返し藪と泥のスタートが容易に想像され、気持ちが沈む。麻呂さんと合流し装備を整えスタート。急登は踏み跡もあり、心配していた泥濘も無く思ったほど悪くない。尾根に乗るまでは笹藪メインでさほど苦もなく登ることができた。尾根からは植生が少し変わり石楠花が多くなってくる。枝の抵抗が強く思うように体を押し進められず、体力気力が徐々に削られていく。途中で悪そうな大株を避けるため笹藪に足を踏み入れたところ滑ってしまい3m程滑落。太い枝を保持していたため冷静に体勢を整えることができた。

過去の記録からジャンクションピークを越えれば雪が出てくるだろうと見当を付けていたが、どこまで進んでも雪は無くひたすら藪を進む。リーダーが凄まじい馬力とルートファインで藪を突破していく。
親熊の後を追う子熊の如く必死でついていく。ナイフリッジは既に消失し、木の枝・根を歩く状態であった。夕刻となり、幕営地が決まった時は心の底から安堵した。

5/3  3時起床、体が重い。藪漕ぎスタートかと思いきや急登スタートであった。藪でないだけ有難いとは思ったものの、昨日の疲労もあり思うように足が上がらない。それでも快晴微風のコンディションであったため絶景を楽しみながら登ることができた。

爺ヶ岳からは一般道、疲れを忘れ楽しく歩く。冷池山荘で森さん、國井さんと別れ鹿島槍へ。山頂まで体力的に行けないのではと不安が過ったが、リーダーのフォローのお陰で登頂することができた。山頂での休憩中に落石や雪崩、山肌が崩れる音が幾度と無く聞こえ、山が動いていることを実感した。

冷池山荘に戻り乾杯となったが、どうにも胃が受け付けない。ひたすら水を飲み、おんちゃんから頂いた海苔の佃煮を少し口にすると食欲が出てきた。シュラフはおんちゃんが山荘の屋根で干して下さっていたため暖かくゆっくり休むことができた。

5/4  今回の山行で個人的に一番の不安であったトラバースと対峙する。トラバースは下調べにて1箇所であると思い込んでいたが、実際は3箇所あった。頭上にはクラックが入った場所もあり、1人ずつ距離を空けて通過。ステップがしっかりあり、アックスの効きも良かったので落ち着いて渡ることができた。雪が緩めば滑落や崩落のリスクが格段に上がるのだろう、残雪期の難しさを感じた。

トラバースを過ぎればサクサク…と思っていたが、右爪先に鋭い痛みが走るようになり徐々に歩行がヨレ始めた。靴を調整したりテープを巻いてみたが歩行バランスが悪いため諦めてペースを落とす。ふと視線を上げると新緑が眩しく、正に「山笑う」である。途中、麻呂さんが様子を見に戻ってきて下さったりおんちゃんが林道を付き添って下さったり、車をリーダーが取りに行って下さったりと多くのフォローがあり無事下山することができた。反省点は多々あるが、最高に楽しい合宿であった。

 

S__6537388振り返っても道の無い爺ヶ岳東尾根

S__6537390翌朝、1発目の急登だが、振り返るとそこは絶景

S__6537392雷鳥にもたくさん会いました!

S__6537394鹿島槍ヶ岳山頂

S__6537396天上の宴会場

S__6537398奈落へのトラバース(赤岩尾根

S__6537400無事下山しました!

みなさん、お疲れ様でした♪

白馬岳主稜

期 日:2023年3月11日~12日
参加者:Lなべたけ、しげちゃん、おんちゃん

3月11日(土)快晴
二股(7:15)-猿倉(9:00)-白馬尻(10:55)-幕営地(14:10)

2022年末の冬合宿(槍ヶ岳中崎尾根)の下山後、温泉から帰る時「次はどこの山に登るか」が話題に上った。百名山ハンターの私はいくつか未踏の山の名を上げたと記憶しているが、なべたけさんからは、「白馬岳主稜とか良いですよね。3月末辺りの雪が安定している時期に」と具体的な山の名前だけでなく、「主稜」という具体的なルート名を示された。白馬主稜といえば、山岳会に入る前に独学でバリエーションルートをやり始めた頃に「いつかは登ってみたいルート」として、心に思い描いたことがあるルートである。あの頃は、夢でしかなかったが今の自分たちなら、なべたけさんとなら行けるかも知れない。とはいえ、冬山のバリエーションルートは様々な条件が整わなければ行けるものでは無い。その時は「行けたらいいですね」と心のどこかに行けるわけはないという思いを残しながらの返事であった。2月に入り、毎週月曜日のクライミングジムで行われるリード、ビレイなどの岩登りの練習にも慣れて来た頃、なべたけさんから「そういえば白馬主稜はどうでしょう?」と再度オファーを受けた。「自分の今の技量で行けるのか?」と不安もよぎったが思わず「行きましょう!」と返事をしてしまっていた。

具体的に日程は週末、3月11日土曜日と12日日曜日の一泊二日で決定した。そこからは、ほぼ毎日白馬岳の天気予報と雪崩ネットワークのサイトと睨めっこである。積雪量はどうか?どのような間隔で雪が降っているかなど現地にいなくてもある程度の想像はできる。どんな雪が降ると雪崩ネットワークで雪崩確率が上がるのかを中心に情報を収集した。暁山岳会での雪崩のスペシャリストは、山スキーを毎年楽しむレー子さんである。レー子さんには、「3月の白馬岳は雪崩の巣。私なら行かない」と指摘を受けたが、あくまで「天候が安定し、雪崩の危険を最大限回避して危険が伴う際は山頂を目指さない」と約束して入山した。雪崩ネットワークは毎朝5時に更新ということだが、実際には6時ごろに最新版の情報が更新されるので、それも確認してからの入山とした。

あいにく前日に雪は降ったが量はあまり多くなく、雪崩ネットワークも要注意程度で、比較的安定していることを確認し、登山口へ向かった。登山口ではネット環境が手に入らないことを危惧したものだ。(その分出発が遅くなったことで、レー子さんからは「冬は早出早立ちが基本よ」と窘められた)
登山口は猿倉山荘までが通行止めであったため、手前の発電所付近駐車スペースに駐車したが、バックカントリーの登山客でほぼ満車であった。ネット環境も確保できたので、ここで情報収集しても良かったかもしれない。(ここまで雪なし)

二股登山口

なんとかスペースを確保し、7時15分頃に登山開始。林道は次第に雪が目立つようになってきた。路肩の斜面に張り付いていた雪は崩落し、林道にまではみ出しているものもあった。猿倉小屋まで2時間ほど歩いて到着。途中下山してくるスキーヤーにすれちがった。前夜山で過ごしたのか、朝から軽く登っただけなのかは不明だが、自分たちが出遅れていることを感じた。朝飯で一息入れてから、雪崩危険箇所については立ち止まらずにスムーズに通り抜けること。前後の間隔を空けて複数人の雪崩遭難を避けること。などを確認し手先へ進む。
白馬尻付近の沢に入るとまるでラッセル車が通過した後のような、雪崩痕の脇を抜ける。出会う沢は皆雪崩が合流している様に見える。快晴であること、足元の雪を踏めばまだしっかりと締まっている事から、緊張しながらも快適に先へ進むことができた。

白馬尻の雪崩痕

白馬尻には11時前に到着。いよいよ主稜への取り付きである。ソロの先行者があり、踏み跡に迷いはない。我々より1時間ほど先行しているので、安心して歩を進められた。がしかし、ここからの急登は、これまでがほぼ林道歩きだったために一気に疲労感が出てくる。少し残る樹林を巻き、尾根を目指す。尾根に上がる最後の急登を前にして、ふと顔を上げると先行者が下山してくる。話しかけてみると「この先踏み抜きで胸まで落ちた。危険と判断して下山」とのこと。午後に入り、雪もだいぶ緩んできているようだ。ここまでトップを歩かせてもらったが、この先の踏み跡も期待できず、踏み抜きもあり得るとなるとここは経験豊富ななべたけさんとトップを交代して、先に進んだ。ここから先は、幕営適地も探さなければならない。心配していた踏み抜きは、先行者が落ちた箇所のみで、無事に稜線まで上がれたが、その先は狭い稜線が続くので本日の幕営地を白馬主稜末端部の稜線上とした。時刻は14時過ぎ。

狭い幕営地

テントを設営していると近隣で雪崩音。音が山に反射してしまい、雪崩箇所は特定できなかったが、緊張感を途切れさせないのには十分であった。幕営地は、あまり広いスペースは取れなかった。両サイド切れ落ち、酒に酔ってトイレに行った拍子に滑落してしまいそうだ。今回の山行では、宴会を目的とはしなかったので、酒はそれぞれ軽く口に含む程度にした。食事後に今日が私の誕生日であることをおんちゃんが思い出し、なべたけさんとおんちゃんでバースディソングを歌ってくれた。記憶に残る誕生日となりました。様々な過去の話をしながら、泥酔滑落もなく19時前には就寝した。

3月12日(日)快晴
幕営地(3:30)-白馬岳(10:55)-白馬尻(13:30)-猿倉(14:35)-二股(16:30)

翌朝は2時起床。稜線上ではろくに食事も摂れないので、朝からテント内でしっかりと食べた。3時30分にはテントを撤収し、暗闇の中ビーコンのスイッチを入れる。風もなく空には月が明るく、星も綺麗だ。今日も天候は安定してそうだ。稜線では、経験豊富ななべたけさんをトップに、私が殿を務める形でおんちゃんを間に挟んだ。先行者は昨日敗退したが、全体的に一昨日のトレースが残っており、快適な稜線歩きであったが、途中吹き溜まりではラッセルもあり、なべたけさんに負担が大きくなると考えてトップと殿を交代したが、残念ながら私がビビってしまいあまり長くは続かなかった。

夜中の稜線歩き

このまますんなりと山頂まで上がれるかとも思ったが、白馬の雪形の岩場付近で岩雪ミックスの箇所があり、もう一箇所は山頂直下の詰め上げでロープを出した。スノーバーで確保しつつ、二番手おんちゃんはプルージックで上がった。

少し休憩

白馬主稜名物の巨大雪庇は今年は全くなく、最後3m程度詰め上げるだけで、あっさりと午前11時に山頂へ躍り出た。山頂には誰もおらず、冬特有の貸切の山頂を堪能した。相対する剱岳の毒々しさと立山の優美さがとても印象に残った。やり遂げた満足感で、おんちゃんはサングラス越しに感極まっているのを感じた。

白馬岳山頂

白馬山荘で風を避けて昼食をとり、いよいよ下山は白馬の大雪渓である。下山時は、沢の出会いに注意して、横からの雪崩にも十分注意し、時折自身の上方の雪の状態を確認しながら下山する様になべたけさんから指導されながら、一目散に下山した。昨日に引き続き今日も気温は高く、白馬尻までは気が気ではなかった。また、雪が緩みアイゼンに大きくまとわりつく。スリップすれば、大雪渓をシリセードかと思うとヒヤヒヤでした。降って行くと、白馬尻の手前で昨日には見えなかった雪崩痕を発見。恐らく昨夜の幕営地の隣の沢が落ちたもののようだ。デブリは1mほどのものもあり、改めて雪崩に恐怖した。

猿倉山荘へ戻ったのは、14時30分。昨日の行きとは雪の状態がだいぶ緩み、踏み抜き多く、既に体はヘロヘロであったが、お互いに励まし合いながら16時30分に登山口まで下山。林道では多くの山スキーヤーに追い越された。追い越しの際に声をかけてくれると助かるのだが、声もかけずに音もなく後方から追い抜いていくスキーヤーには辟易した。一度は危うく接触しそうになった。林道で雪が減り、少しでも長くスキーで降りたい気持ちはわかるし、斜度の弱い林道ではなるべく止まりたくないのもわかるが、声は掛けて欲しいものだ。

下山後は、麓で温泉に浸かって二日間頑張ってくれたカラダを労った。最後になりますが、安定したリードで終始落ち着いて先導してくれたなべたけさん、文句も言わずに力強く登ったおんちゃん。相模原から見守ってくれた見守り隊の皆様のおかげで安心して行ってくることができました。ありがとうございます。また、雪山について忌憚のないご意見やアドバイスを頂いたレジェンドよっしーさんやレー子さんにもとても参考になりました。ありがとうございました。

(記 しげちゃん)

春山合宿B隊 蝶ヶ岳

期 日:2022年4月29日~5月1日
参加者:Lダイヤ、いずっこ

4月29日(土)雨
上高地(15:15)-徳沢テント場(17:00)

天気予報がよくないので早朝発の予定を変更し10時に相模原を出る。相模湖から中央道にのり松本で降りる、混雑はなかった。沢渡駐車場雨の中で身支度しバス乗り場へ、天気が悪く観光客は少ない。14:30発のバスに乗り上高地へ20数年ぶりである、雨が降っており気分はさえない。行くしかないと決意し出発、明神で休憩付近に多くのサルを見かけた。雨は降り続く見通しなので、徳沢で泊まることとしテント泊の手続きをすませる。すでに40張りほどあり適地を選ぶのに苦労する。雨の中でのテント設営でしっかり濡れてしまった、ストーブの有る休憩所で温まり着ているものも少しは乾いた(休憩所使用可に感謝)。横尾泊の予定を徳沢泊に変更したので、明日は横尾から蝶ケ岳へそして長塀尾根から徳沢へ変更とした。眠る前に雨は止んだようだ。

4月30日(日)快晴
徳沢(5:35)-横尾-稜線(10:30、蝶槍を往復)-蝶ケ岳小屋(11:55~12:50)-長塀尾根-徳沢テント場(16:30)

3時過ぎ寒くて目が覚める、満天の星である。朝食を済ませ日帰り装備で出発。

徳沢から明神岳

横尾へは迂回ルートで河原の方を進む、1時間ほどで横尾着10張り程テントがあった。これから稜線までの急登である、スパッツを着けて出発槍見平では振り返ると槍ヶ岳の雄姿が目に入った。

槍見平から槍ヶ岳

徐々に残雪が多くなり雪面も固くなってきたのでアイゼンを着けた。登山道は雪に埋もれており目印や踏み後を頼りに進んだ。急登が続きなかなかきつい、10時半横尾分岐の稜線に出る多くの登山者が休憩していた、快晴であり槍穂高をはじめよい眺めであった。雪のない稜線なのでアイゼンを外す。北アルプス・南アルプス・富士山・八ヶ岳・浅間山等々360度の展望を楽しみながらなだらかな稜線歩きである、蝶槍を往復し蝶ケ岳ヒュッテへと歩く。ヒュッテで長い時間ゆっくりした。

蝶ヶ岳ヒュッテから穂高の山並み

山頂で二人の記念撮影、眺めを惜しみつつ徳沢への下降ルート長塀尾根へ向かう。腐った雪面を滑るように下り長塀山を過ぎて徐々に急な下降となり、途中でアイゼンを着けることにした。母親と三才くらいの子が一緒のパ-ティ-と出会った、ここまで登って来たことも大したものだと思うが、これから先の登りも大変と気になった。だいぶ下り残雪が途切れ出しアイゼンを外す。久しぶりの長時間の行動に疲れも出て、急なくだりに徳沢はまだかまだかと思うようになってきてしまった。4時半徳沢着、テントは60張りを超えていただろうか。

5月1日(月)曇り
徳沢(7:05)-上高地(9:00)

時おり霧雨のようなすっきりしない空模様、様子を見ながらテント撤収。昨日の疲れが残っており筋肉痛もあり、ゆっくり歩を進める。時おり小雨であったが、雨具を着けずに上高地バスターミナルに着くことが出来た。バスで沢渡駐車場へ、帰る途中島々手前にあった「竜島温泉」に入りゆっくりした。帰りの中央道は渋滞であり、大月で降りて抜け道経由で相模原に帰った。
久しぶりの合宿参加、入山日と下山日は天気が良くなかったが中日は予報通りの快晴ですばらしい山行となり良かったです。また、いずっこの事前調査やコ-スタイム等の把握に感心しました。 

(記 ダイヤ)

春山合宿E隊 西穂高岳

期 日:2022年5月3日~4日
参加者:Lオヨシ、そうべぇ、ヒー、しげちゃん

5月3日(火)晴れ
鍋平登山者用駐車場(11:00)-西穂口(11:40)-西穂山荘(12:50)幕営

GW前半は天気が悪かったためか後半は人出も多く、高速道路は混雑していた。新穂高温泉の駐車場も例外なく、第一と無料はすでに満車であった。第二を案内されたが、鍋平登山者用駐車場に停めた。西穂山荘のテン場がいっぱいになっていないか、そればかりが気がかりだった。西穂口から山荘までの登山道にはまだまだ雪が積もっており、所々凍っていた。西穂山荘に到着するとテン場は半分近く埋まっていた。

にぎわう西穂山荘のテン場

独標まで偵察する予定だったが、独標以降も積雪混じりであることが、他の登山客の会話で確認できたので偵察はなし。翌日は雪がしまっている早朝5時より行動を開始することとし、早めに夕食を取って19時頃には就寝した。

5月4日(水)晴れ
西穂山荘(5:10)-独標(11峰)(6:15〜6:30)-ピラミッドピーク(8峰)(6:50)-チャンピオンピーク(4峰)(7:15)-西穂高岳(7:55~8:10)-西穂山荘(10:30~11:40)-西穂口(12:45)-鍋平登山者用駐車場(13:30)

準備を整えアイゼンを履いて行動開始。独標までは近いと思っていたが、意外と時間を要した。独標より先には既に3~4パーティーの姿が見えた。登山道の7割ほどが雪で覆われていた。ロープや登攀装備は持参、結果として使用する場面はなかったが、ミックスで歩きづらかったが、難易度としては夏山相当だったと思われる。厳冬期は雪庇がせり出し、登山道からも大きく外れるピラミッドピークまでの道のりも残雪期はさほど難しくはない。

ピラミッドピークに向かう

続くチャンピオンピークまでの道のりも同様である。2峰から山頂まではザレ場の急登になっており、先行パーティーは難儀していた。ほぼ想定コースタイムで山頂に到着。

振り返ると、後続パーティーがいくつも押し寄せていたので、足早に山荘へ戻る。近年、西穂高岳では滑落事故が多発しているが、特に下りでの気の緩みは非常に危険であると感じた。テン場は10時までに撤収せねばならなかったが、超過してしまったので急いで片付ける。西穂口までの登山道は緩くストックとアイゼンが欠かせない。慌ただしい下山となったが、メンバー全員が充実感を得たものになった。

(記 オヨシ)

春山合宿D隊 蝶ヶ岳

期 日:2022年5月1日~3日
参加者:Lなべたけ、わたゆき

5月1日(日)雨
沢渡大橋駐車場=(バス)=上高地バスターミナル-河童橋(10:30)-徳沢(13:00)-徳沢園キャンプ場(幕営)

天気は、前線の影響で終日降雨の予報。2日は高気圧がはりだして午前中は晴れるが、午後に強い寒気が入ってくるため、標高の高いところで悪化するとのこと(ヤマテンより)。沢渡に到着すると雨が強くなり始めた。駐車場の整理員の方から、明日からは天気が良いと声をかけられたので、午後からは悪くなるようだと応えると、「?」の様子だった。気象協会などの山の天気予報でも、終日晴れマークだったので、少し難しい予報なのかもしれない(予想天気図では高気圧に覆われる)。5月だが、森林限界を超える山域では真冬のコンディションになる可能性がある。ヤマテンに感謝!だった。徳沢まで雨がそぼ降り続けたが、ひどい降り方にはならなかった。夕刻には小雨になり、テントから出るのが楽になった。

5月2日(月)晴れのち雪
徳沢(4:15)-横尾(5:40)-横尾分岐(9:50)-蝶ヶ岳ヒュッテ-蝶ヶ岳山頂(10:50)-長塀尾根-徳沢(14:20)

当初の計画は2日目は蝶ヶ岳山頂で幕営だったが、天気の状況を考えて、アタック装備で登り(ツェルトも持参していた)、徳沢に戻る行程に変更。徳沢からメールで計画の変更を連絡した。 午前中は、晴天が確実な予報だったので、展望を期待していた。明け方に徳沢から梓川に出ると、新雪をまとった巨大な小惑星のような山が正面に現れた。

もうじき稜線に出る

前穂と北尾根を確認することができた。梓川の上流側は、快晴の明け方の空へ広がる梓川と山並みの眺めで、普段生活している同じ日本とはとても思えないスケールの風景だった。横尾からの登山道でも、槍見台から、霞がかった青空に映える槍ヶ岳を見ることができた。ゆっくり、順調に高度を上げることができた。2000m付近からは一面の雪景色になった。雪面はしっかり締まっており、アイゼン歩行で問題なくペース良く歩くことができた。横尾分岐まで登ると、青空と新雪の素晴らしい景色のなか、穂高の稜線の北側から雲が湧いてきているのが見えた。槍の穂先も雲に隠れて、少しずつ雲が迫ってきている様子だった。稜線に出ると、少し強めの風が吹き付けてきた。蝶ヶ岳ヒュッテの建物のかげで風をしのいで休憩した後、山頂へ。

向こうに山頂が見える

下山を始めると、雪が舞い始めた。下山ルートの長塀尾根は、名前通り少し長い尾根で、ゆったりと歩いた。展望はほとんどなかったので、登ってくると大変そうだったが、雪が溶けるとお花などを楽しめるようだ。

徳沢へ下山

ゆっくり順調に、徳沢へ無事に帰ってくることができた。徳沢でも次第に降雪が多くなり、夕刻には雪景色になった。

5月3日(火)晴れ
徳沢(5:30)-上高地(7:30)-バスターミナル=(バス)=沢渡大橋駐車場

朝早めに出発して上高地へ。3日から連休になり、天気も良さそうなので、上高地からの登山者とつぎつぎにすれ違った。色とりどりの登山スタイルで、風景だけでなく、登山者の様子を見るのも楽しかった。朝から快晴で、梓川の宝石ような青色の流れが、新緑と新雪の山並みと一緒に美しく映えていた。しばらく河原でのんびりして春の上高地を堪能した。

(記 なべたけ)

会山行 入笠山〜程久保山

期 日:2022年3月5日~6日
参加者:(山スキー)Lレー子、オヨシ、ヒー(スノーシュー・ワカン)ヨッシー、なべたけ、しげちゃん(日帰り)そうべぇ、いずっこ

3月5日(土)曇り後雪、強風
沢入登山口(8:30)-入笠湿原(10:00〜10:30)-御所平峠~旧スキー場上にてビーコントレ(10:30〜11:30)-入笠山山頂(11:50〜12:00)
【日帰り】御所平峠-入笠湿原往路下山)-沢入登山口(13:15)
【泊まり】首切清水-大阿原湿原(13:00〜13:30)-湿原入口周辺樹林帯(13:40)幕営

当初の計画は新潟の東谷山から日白山の予定だったが、週間予報はずっと悪く土曜日の午後は雨、その後暴風雪。直前になっても好転の気配なく、雪があって天気の比較的良いのは入笠山しかなかった。悩んだ末、前日になって入笠山からおまけで釜無山をプラスした計画に変更した。

いつもはゴンドラで楽々登るが、今回はトレーニングのため沢入登山口から登ることとする。しばらくは雪が途切れているためスキー隊は板を背負って夏道を登る。まもなく雪が繋がり板を履くが、つぼ足隊からは遅れる。山彦荘横のトイレ前で全員合流。それにしても手軽に雪山に登れるためか人が多い。

御所平峠からは踏み固められた夏道を避け、ワカン、スキーで旧スキー場を直に上がる。その先の樹林帯でビーコンの電波特性の理解と複数埋没の捜索練習を全員で行う。みんなもったいないことに自分の高価なビーコンの機能を十分理解していない。今後はリスク管理のためにもシーズン初めにビーコンのトレーニングを実施するのが良いと思う。また、スマートフォンがビーコンの電波に干渉するとのことで、実際に発信モードのビーコンとスマートフォンを重ねると、捜索モードで数メートルまで接近しないと電波を受信できないことが実際に確認できた。

ビーコン捜索、講習で得た知識や技術を共有

日帰り組の下山時間もあるので、1時間程度のトレーニングの後山頂を目指す。山頂に近づくにつれて非常に風が強くなる。いつもは穏やかでぐるぐるっと360度山が見える山頂だが、本日は強風と黄砂なのか黄色く霞んで山は全く見えない。

入笠山山頂で記念撮影!キマってる!?

長居は無用と、御所平峠に下山する日帰り組と分かれて首切清水に向かう。ほとんどの登山者は御所平峠への夏道を下るため、人は少ないが雪面はスノーシューなどのトレースで荒れており、スキー隊は泊りの重荷で板を取られないように慎重に下る。林道に出て大阿原湿原に向かう。湿原まで行く人は少ないがそれほど時間がかかるわけではないので、ちょっと足を延ばすだけで静かなスノーハイキングが楽しめそうだ。

大阿原湿原は当然のことながら強風が吹き荒れており、ヨッシーが幕営地の偵察に行き適地を見つけて戻って来た。いつも思うことだが、ヨッシーの幕営適地を探す能力は天性のものなのか、人間とは思えない…。

大阿原湿原から沢入駐車場に下る林道をわずかに進んだ樹林帯を幕営地とし各自テントを張るが、しげちゃんは退路を断ってテントを持ってこなかったため、イグルーに挑戦。残念ながら天井が塞げず、テントのグランドシートを借りて屋根として完成。一晩快適に過ごせたらしい。

イグルー作り、個性が出ます

夕方から雪が降り始め夜間も降り続いたが、樹林帯の中で風もなく静かな夜だった。

3月6日(日)晴れ後曇り
幕営地付近にて積雪断面観察・弱層テスト・救助トレ
(6:00〜8:00)-幕営地(8:30)-程久保山(9:30〜9:40)-幕営地(テント撤収)(9:55〜10:50)-林道下山-沢入登山口(11:25~12:10)

本日は昼頃から再び天候が崩れると思われ、まったくトレースのない釜無山往復には時間もかかりそうなので、幕営地付近でまずトレーニングをすることとした。積雪深90~100㎝、まず積雪断面を掘り出し、層の雪質、硬さの変化などを観察する。結合力の弱い「しもざらめ雪」も観察できた。弱層テストとしてコンプレッションテストと簡易的なハンドテストを練習、その後V字ローテーションで埋没者の掘出しを行い、低体温の要救助者への対応として隔離・保温・加温の原則を確認した。プラティパスを使っての体幹湯たんぽには反対の意見もでたが、北海道警ではこれにより低体温症の救助が革新的に進歩したといい、山岳医療救助機構でもこれを推奨しており、雪崩の捜索技術はもちろんだがファーストエイドの知識・技能のアップデートも必要だな、と思う。

コンプレッションテスト
要救助者への対応

トレーニングは繰り返し行うのが効果的だが、だんだんみんな飽きてきたようなので、テントをその場に残して、釜無山方面の行けるところまで行くことにした。ちょうどそこに沢入登山口から林道を登って来た山スキーの二人に出会った。今や人気のマナスル山荘のビーフシチューを予約してあるのだと言う。昨日はピラタスから登り蓼科山での山スキー講習に参加したがそうだが、荒天のため入笠に移動してきたとのこと。

我々はトレースのない林道をラッセルして進むが、山スキーやスノーシューに比べワカンは大変そうだ。しばらく進むと釜無山が遥か遠くに確認でき、みんなの心から山頂を目指す気持ちが消えた。それでも程久保山まで登ろうと、林道から切り開かれた斜面を登る。標識もない山かと思ったが、ピークには小さな「程久保山1977m」のプレートがあり、今回の最高峰だ。

程久保山のピークのプレート

林道までは快適な斜面を滑るが、林道から幕営地までは時々漕ぎながらの緩やかな滑りを楽しむ。
テント撤収後、朝登って来た二人からの情報では、林道は沢入駐車場まで雪が繋がっているとのことで、スキーに有利な林道を下山することとした。スキー隊到着から40分程度の遅れでスノーシュー、ワカン隊が到着。その頃には再び雪が舞い始めていた。

越後方面の積雪量にはおよばないが、ひと通りの雪崩トレーニングができ、入笠と思えない静かな雪山が楽しめて良かった。今回おまけで計画した釜無山まで行けなかったが、体力のあるうちに釜無山から白岩岳、鋸岳に行きたいなと帰宅後地図を眺めながら思った。

(記 レー子)

冬山合宿 仙丈ヶ岳

期 日:2021年12月29日~31日
参加者:Lオヨシ、なべたけ、わたゆき、やまけん、ヒー、しげちゃん

12月29日(水)晴れのち風雪
戸台河原駐車場(8:40)-丹渓山荘跡(13:15)-八丁坂ノ頭(14:30)-北沢峠(16:55)-長衛小屋(17:25)幕営

クリスマス辺りから冬型の気圧配置が強まり、年末年始は南アルプスでも厳しい寒さや降雪に見舞われる予報。出発前の最終確認では想定される事態を共有し、6人の団結力をさらに強めた。
4時過ぎに相模原を出発、渋滞に巻き込まれることなく戸台河原駐車場に到着。年末年始の北沢峠(長衛小屋)は賑わうとのことだったが、先に止まっていた車は5台程度だった。登山口に詰めている警官の方に計画書を提出して行動開始。暫く河原歩きが続くが、大きなザックを背負っての歩行はきつい。

渡渉できる場所を探す

途中、渡渉や堰堤越えを数回、熊ノ穴沢出合辺りから積雪が足元を覆うようになった。3時間程度と見ていた河原歩きは結果的に4時間半かかり、ようやく丹渓山荘跡(赤河原分岐)に辿り着く。いよいよ、ここから急登が始まる。1時間ほど黙々と登り続け八丁坂ノ頭で一休み、凍結箇所が目立ってきたのでアイゼンを装着して行動再開。徐々に雪深くなり、先頭は歩きづらさも増してきたためワカンを装着。各々のペースで歩いていたことも相まって、徐々に隊の間隔が広がり始める。大平山荘に着く頃には先頭と最後尾の差は20分程度になってしまった。北沢峠ですっかり日も暮れ、ヘッドライトを装着。風雪が舞い始め、疲労もピークに達し、長衛小屋までの道のりがとても長く感じた。広い幕営地にテントが6張、思い描いていた風景と違う。予定より3時間到着が遅くなったこと、16時からの気象通報が確認できなかったことやメンバーの体調を勘案し、翌朝の行動開始を遅らせて無理のない計画に見直すことにした。

12月30日(木)曇りのち風雪
幕営地(7:50)-四合目(11:25)-大滝ノ頭(12:15)-長衛小屋(13:50)幕営

夜中に何度か暴風が吹いたようだが、眠気の方がまさった。しっかり休養を取ったことでメンバーの体調は良好。事前に確認していた予報では夕方から荒天。仙丈ヶ岳の登頂は諦め手前の小仙丈ヶ岳を目指すこととした。また天候が荒れる前に幕営地へ戻るため、12時をもって引き返す計画に変更した。我々より先に登っているパーティーはおらず、僅かに残る数日前の薄いトレースを頼りにラッセルを強いられることになる。積雪の状況と各自の体力に合わせながら、6人で交代しながら進む。二合目までの急登では積雪は膝ほど、それより先は腰より上まで埋まりそうになる。なぜだか気持ちが躍る。

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久し振りのラッセル祭り

四合目を過ぎた辺りで山頂から下ってきたという学生2人とすれ違う。三峰川岳沢から縦走してきたそうで、昨晩は仙丈ヶ岳と小仙丈ヶ岳の間の稜線上で幕営したとのこと。時計が12時を回った頃、ようやく五合目の大滝ノ頭に到着。ラッセルで相当時間を費やしてしまった。ここから小仙丈ヶ岳までは往復で3時間以上要するため、大滝ノ頭で記念撮影をして幕営地に戻ることにした。

大滝ノ頭で記念撮影

あれだけ苦労したラッセルを忘れてしまうくらい、下りはとてもスムーズだった。久々の尻セードも楽しかった。天候は予報通りに崩れ始め、15時過ぎには吹雪き始めた。16時の気象通報によると、翌日は下山まで天気が持ちそうだったので計画変更はなし。少し早めに夕食を取り就寝した。

12月31日(金)風雪のち晴れ
幕営地(6:30)-八丁坂ノ頭(8:45)-丹渓山荘跡(9:40)-戸台河原駐車場(14:10)

暴風で夜中に何度も起こされ、若干寝不足を感じながらの起床。外に出てみるとテントの周りにもしっかり雪が積もっていた。

昨夜の吹雪きでまた雪が積もる

湿ったテントを撤収、まだ薄暗く吹雪く中を出発。自分たちが初日に付けたはずのトレースは完全に消えていたので、斜面に落ちないよう注意しながら進む。3時間あまりで丹渓山荘跡まで下る。そこに広がっていたのは、真っ白に染まった河原であった。

初日とは別世界の河原

初日と同じ場所とは思えないくらい様相が変わっていたが、小動物に出会えそう雰囲気でちょっとワクワクした。再び4時間半の河原歩きだが、積雪と凍結により多少なだらかで行きよりも歩きやすい。途中、6パーティーほどとすれ違う。甲斐駒、仙丈、鋸と、各地で新年を迎えるのであろう。
全員怪我もなく無事に下山。今回は天候に悩まされたが、久し振りに冬山を堪能できた。山行中の支え合いによってメンバーシップも強くなり、今後の会山行に向けて良い流れを作る合宿になった。

(記 オヨシ)

会山行A隊 巻機山

期 日:2020年12月5日~6日
参加者 Lオヨシ、こま、コバヤン、りこ、ヒー

12月5日(土)晴れ
桜坂駐車場(9:30)-六合目(12:20)-1450m付近(13:00〜13:20)-七合目(14:30)-1450m付近(15:00)幕営

コロナ禍で春から自粛が続いた会山行。冬の訪れを感じる12月上旬、ようやくトレーニング山行を実施。雪を求めて越後の巻機山へ。今回は2隊に分かれ、A隊は七合目付近で幕営し山頂ピストン、B隊(そうべぇ、みの、いずっこ)は日帰りで七合目で引き返す計画である。

豪雪地帯である六日町、例年に比べて積雪は少なめ。一週間前の偵察時はかろうじて雪山らしさが残っていたが、その後は晴天が続き、かなり雪融けが進んでしまった。仮に大雪が降ると、桜坂駐車場の最寄りの清水バス停より二つ手前の西谷後バス停付近に駐車し、そこから駐車場までラッセルしなけばならない。

各々装備を整え出発。駐車場から間もなくして井戸尾根と割引沢・ヌクビ沢との分岐。次回は沢にチャレンジしてみたい。五合目までは雪融けで登山道が泥濘み混じり、全くテンションが上がらない。メンバーの会話も徐々に減ってくる。五合目で一休み、その先の登山道を見上げても雪の姿はない。日帰りB隊はこのまま雪を踏まずに下山するのだろうか…と不安がよぎる。しかし心配は無用であった。六合目までくると脛下まで積雪があった。

A隊の幕営地として予定していた1400m付近まで登ってきたが、どこも藪が出てしまっており、もう少し先の1450m付近を幕営地とした。B隊に整地を手伝ってもらい、各々テントを設営。一汗書いてくれたB隊の下山を見送ったあと、A隊はワカンを履いて七合目のなだらかな斜面を歩行、ワカンの感覚を思い出す。日が暮れる前にテントに戻り、翌日に備えて早めに就寝する。

12月6日(日)晴れ
幕営地(5:30)-八合目(6:40)-九合目(7:10)-巻機山(8:15〜8:30)-桜坂駐車場(12:40)

翌朝は4時過ぎに起床、朝食と仕度を1時間ほどで済ませて出発。七合目から先はいい感じの積雪。

八合目から先の様子

九合目のニセ巻機山が見えてきた頃にご来光、少し霧がかっている。

九合目から見たご来光

巻機山避難小屋前で小休止を取り、山頂を目指して直登する。

雪に映る人影が面白い

斜面には山スキーのシュプールがいくつも残っている。ほどなくして山頂に到着、積雪は1m程度だろうか。風が強く肌寒いので、手早く記念撮影を済ませる。

登ってきた尾根を振り返ると、雲海が広がり清々しい。

尾根と雲海のコラボ

避難小屋まで思い思いに駆け下りる。沈む前に次の一歩を出す、斜度があるので意外とスピードが出る。確かに、この斜面をスキーで滑るのは楽しそうだ。そのままの勢いで幕営地まで戻り、テントを撤収。六合目から下は前日よりも泥濘んでいて、転倒しないように注意しながら下る。お昼過ぎに駐車場へ到着。水道で汚れた装備を洗い流し、スッキリした気持ちで帰路についた。

(記 オヨシ)

塩見岳

期 日:2020年3月20日~22日
参加者:Lオヨシ、コバヤン、みの、こ~平、ヒー

3月20日(土)曇りのち晴れ
相模原(6:30)=松川IC=鳥倉林道冬季閉鎖ゲート(駐車スペース)(10:30)-越路ゲート(12:10~12:20)-鳥倉林道登山口(13:00)―三伏峠小屋(16:50)幕営

無積雪期は越路ゲートの駐車場に停められる鳥倉林道だが、積雪期の12下旬から4月下旬までは6km手前の冬季閉鎖ゲートまでしか車で入れない。その際は狭いスペースに停めることになるため1台で行くことにした。5人分の大型ザック、ピッケル、ストック、ワカン等と共同装備。大荷物であることは自覚していたが、予想以上に積み込みで苦戦。どう見ても荷台はキャパオーバーのため、潔く後部座席の足元や膝の上を使うことに。予定より30分以上遅れて出発した。
7時近かったが圏央道の恒例渋滞には捕まらず、順調にその先の中央道へ。松川ICから大鹿村までの道のりは今季3回目、妙に親近感がわく。林道手前の最後の店舗である道の駅『歌舞伎の里大鹿』でお酒やおつまみを購入。全国的に流行し始めたコロナウイルスの影響は地方の道の駅にも波及、「マスク未入荷」の貼り紙があった。冬季閉鎖ゲートまでは対向車には遭遇したくはない道幅で、縁石は切れ落ちていないものの落石が散見される。予想に反して凍結はしていなかったが、予定より1時間遅れで冬季閉鎖ゲート手前に到着。既に3台駐車していたが、1台分のスペースはあるため縦列で停める。

冬季閉鎖ゲート手前に駐車

コバヤンは冬季に燕岳へのアプローチである宮城ゲートから中房温泉までの林道をソリを使って歩いた経験から今回もソリを持参。しかしながら見渡す範囲に積雪はなく、早々にソリの出番はないと判断された。

積雪がない林道

2km先の夕立神パノラマ公園に向かう間、普段着の観光客3団体とすれ違った。あいにくの曇り空であったためか、パノラマ公園から展望を諦めて戻ってきたのだろう。パノラマ公園で小休止した後、越路ゲートまでの4kmと登山口までの3kmをひた歩く。

越路ゲート ここまで車で来たかった

久し振りに聞くみのさんとコバヤンの息の合った掛け合いに楽しませてもらいながら登山口に到着。昨年11月に来たときも自転車1台が置かれていたが、今回は2台あった。大型ザックを背負っての運転も決して楽ではないが、林道も行程の一部なので自分の足で歩くべきではないだろうか。

登山口(フレーム外だが右側に自転車)

登山口から三伏峠までは登り一辺倒となる。林道は所々凍結している程度で積雪はほとんどなかったが、登山道は序盤から積雪があるため、早々にアイゼンを着ける。三伏峠までの登山道は10区画に分かれており、時折[○/10]の行程標識が出てくる。等間隔ではないが、3区画を目安に小休止を取りながら登る。[3/10]地点から三伏峠までは登山道が北に面しているため、高度が上がると共に雪深く風も強まるため、防寒着を身に付けた。

谷側を注意しながらを歩く

幾度か沢筋を横切るようにトラバースするが、筋沿いに雪崩れた形跡があるため一人一人慎重に通過する。[7/10]地点より先も傾斜は緩まず、息を切らさぬようペースを乱さず淡々と登る。[8/10]地点を過ぎると、今は閉鎖されている塩川ルートとの分岐が現れる。みのさんは若い頃に塩川ルートから登った経験があるそうだ。三伏峠までおよそ200歩の場所に登山者を励ます看板が足元にあるのだが当然のように雪に埋まって見えない、数分で三伏峠に到着。

三伏峠の看板も埋もれそう

冬季は三伏峠小屋の新館の一画が解放されるが、既に満員状態であった。本来のテン場は膝上辺りまでの積雪に覆われていたので、我々は三伏峠小屋本館近くの樹林帯を整地してテントを2張り(2テンと4テン)手際よく設営する。

腰下くらいまでの積雪
きれいに雪化粧した塩見岳

雪がしまっておらず、圧雪に難儀した。夕飯はヒーさん特製ポトフ、いつも通り賑やかに過ごした。翌日は5時出発の予定だったが、疲れと強風予報を鑑みて、出発を1時間遅らせることにした。

3月21日(日)晴れ
三伏峠小屋(6:50)-三伏山(7:25)-本谷山(8:40~8:50)-塩見小屋手前(12:15~12:35)-塩見岳(14:30)-塩見小屋手前(16:00~16:15)-本谷山(18:20)-三伏山(19:20)―三伏峠小屋(20:10)幕営

6時に出発するため、4時半に起床して5時から朝食を取る予定であったが、こ~平が仕込んできてくれた冷凍挽肉キーマカレーが全く融けてくれない。気温が低く自然解凍が進まなかったのが誤算であった。湯煎して結果的に1時間ほど準備に要した。朝は時間勝負なのでメニュー選定や工程には留意しなければならないと反省。

今日の天気も清々しい

塩見小屋まではワカンとストック、山頂往復はアイゼンとピッケルを使用する計画で各々準備。出発しようとしたところ、みのさんがテントに忘れ物をしたとのことで、他のメンバーはゆっくり先に歩くことにした。幕営地付近から延びているトレースを頼りに15分ほど進むが、何か違和感があった。塩見岳と烏帽子岳との分岐がいつまで経っても現れない。そう思った矢先、頼っていたトレースがなくなってしまった。どうやら塩見岳を眺めるために小屋から東に向かったパーティーが付けたトレースのようだ。

ルートは間違えたが確かに良い景色

目指していた分岐は、小屋から塩見岳に向かう際は誰もが通過する分岐であったため、トレースは信頼できると思い込んで方角や地形図を確認せずに進んだことが良くなかった。気を取り直して戻ると、程なくして右手には以前小屋があった跡地を経由するルートが見えてきた。ほぼ踏まれておらず沢筋で雪が吹き溜まって危険なためこのルートは使わず、三伏峠小屋近くまで戻ることにした。この往復でのロスは10分くらいと感じていたため、みのさんにはすぐ追い付けると思ったが一向に姿が見えない。そうこうしているうちに三伏山に到着してしまった。

三伏山への稜線

呼び掛けながら進むが全く返事が聞こえない。そのまま1時間ほど経過し、先ほど選択しなかった吹き溜まりルートとの合流点となるコルに到達。可能性は低いがみのさんが小屋から急いで追い掛けて来ていることも想定し、こ~平には急ぎめで先に進んでもらい、残りのメンバーは少しペースを落として歩くことにした。間もなくこ~平がみのさんと合流、その連絡を受け、15分後に全員集合となった。気を取り直して行動再開。樹林帯の中でアップダウンを繰り返しながら本谷山に到着。

本谷山からの眺め

11月の山行で幕営した場所だが、今回は雪が積もり標識が見えない。先にそびえる塩見岳を暫く眺め、塩見小屋を目指す。長い下りがあり、50~60mほど標高を下げた辺りに休めそうな場所があったので長めに休憩を取る。ここから登頂してテントに戻ってくるまで約7時間。コバヤンは調子が優れないとのことでテントに戻ることに、夕食の下準備等をお願いした。他のメンバー4名で塩見岳を目指す。
30分ほどで権右衛門山に続く樹林帯の手前に到着。そこから目視できるトレースは北北東方面と北東方面の2本。後者が本来の登山道に思えたが、くっきりしたそのトレースはなぜか東へ伸びて急勾配で下っており、権右衛門沢へ向かっているようだった。すぐに引き返し、もう一方の今朝付けられたと思われる新しいトレースに沿って進むことにする。樹木の間を上手い具合に抜け、徐々に高度を上げながら左手の尾根に詰めていく。大きく東に進路を取った辺りで、3人組パーティーが戻ってきた。聞けば、そのパーティーが朝早くから行動して付けたトレースであった。塩見岳山頂を目指したがラッセルに苦戦を強いられ、今日中に下山するには時間切れとなり撤退してきたとのこと。我々の先には2パーティーが先行しているそうで、トレースのお礼をし先を急いだ。1時間ほど経つと尾根に出る急登が現れる。交代でラッセルしながら登り詰めると合流点にたどり着く。地形図を確認したところ、北から権右衛門山を巻く塩見新道ルートと三伏峠からの登山道が合流する場所だった。積雪期は今回の尾根沿いにルートを取った方がラッセルの負担が少ない。

急登を越えると視界がひらける

合流点から暫く進むと森林限界を抜けて塩見小屋手前のひらけた場所に着く。ここをデポ地点として、しっかりと食事・水分を取り、装備をピッケル、アイゼン、ハーネスに付け替える。ロープは最後尾の私が持ち、気持ちを引き締めて塩見岳へ。

装備を付け替えて再び登り始める

塩見小屋がすっかり雪に埋もれてしまい、何とか屋根の一部が見えている程度。

雄大な塩見岳が現れる

天狗岩までの稜線では常に強い西風が吹き付け、耐風姿勢が解除できずなかなか前に進めない。

強風に耐えながら進む

ようやく天狗岩の基部に着く。見上げると露岩と氷が混ざり合う一筋縄ではいかないコンディションであった。ここから塩見岳山頂までは鎖やハシゴが一切なく、アイゼンでの登攀経験がないとリスクが高い。ロープを使えば登頂を希望していたこ~平をフォローできると思っていたが今回は断念、みのさんと共に一足先に三伏峠へ戻ることとなった。こ~平が凍結箇所の下りで滑らないか心配していたのでロープはみのさんに渡し、私とヒーさんと二人で山頂を目指す。

塩見小屋付近で記念撮影、画になりますね~

天狗岩まではトラバース気味に高度を上げていく。天狗岩の山頂にはよらず横切り、一旦鞍部に下る。見上げると荒々しい塩見岳山頂がそびえ立つ。

見上げると塩見岳山頂が見える

積雪期は右から巻いて登るルートを取るが、核心部のルンゼに向かって比較的直進のトレースがあり、足元の状態も良かったのでそのまま進んだ。ルンゼでは先行の7人組パーティーがロープを使って降りている最中であったので、我々はルートを少しずらして岩壁を登った。時折吹く強風をやり過ごしながら塩見岳の西峰を無事に登頂。標識が完全に埋もれていたので、ピッケルで少し掘り出して記念写真を撮った。

念願の登頂!
山頂からの眺めは良いですね~

強風が止まないのと14時を過ぎていたことから東峰には向かわず、急いで戻ることした。

焦らず慎重にルートを選びます

先ほどのパーティーが苦戦していたルンゼにはしっかりキックステップの跡が残っていたので、ピッケルとアイゼンをしっかり雪面に食い込ませながら慎重に下る。無事に通過できたが、先ほどみのさんにロープを渡してしまったことを後悔した。(こ~平はみのさん指導のもと、ロープを使用せずに下りることができたそうだ)

核心部以外でもピッケルとアイゼンをしっかり食い込ませる

1時間半ほどで塩見小屋先のデポ地点に到着。緊張が続いてお腹もすいたので軽く食事を取り、またワカンとストックに替えてテントに向かう。登りでの体力消耗は想定以上で、下りでも思うようにペースが上がらない。日の入り時刻の17時55分までに三伏山くらいまでたどり着きたかったが、本谷山で日没を向かえてしまった。

夕日がきれい、まだ先は長い

三伏山を過ぎると三伏峠方面にうっすら明かりが見えたので少し安堵した。

暗闇の中、塩見岳を振り返る

テントに到着するとお腹をすかしていたメンバーから温かい言葉をかけてもらった。急いで夕食の大豆キーマカレーを作った。慌てたのと疲れもあり、カレー粉の分量を間違えて激辛カレーとなってしまった。皆さん、頑張って食べてくれてありがとうございました。

3月22日(月)晴れ
三伏峠小屋(7:20)-鳥倉林道登山口(9:30~9:40)-鳥倉林道ゲート(10:20~10:30)-鳥倉林道冬季閉鎖ゲート(駐車スペース)(12:20)

天気予報は午後から下り坂、それまでには下山できるよう5時半起床。前夜は疲れきっていたので周りのいびきも気にならずぐっすり眠れた。朝食は手早く作れる塩ラーメン、カロリーは控えめだが下山のみなので丁度良い。外に出て周囲を見渡すも既に他のパーティーの気配はない。テントを撤収し、アイゼンとストックで下山開始。初日よりも雪は融けているので谷側に足を踏み抜かないように注意しながら足早に下る。淡々と登っていたので気にならなかったが、[6/10]地点から三伏峠までは傾斜が緩やかではなく、落差で下山スピードもつい上がってしまう。アイゼンを外すタイミングを伺っていたが、そうこうしているうちに登山口に着いてしまった。

先は長いので小休止を取りながら

ここから再び9kmの林道歩きが始まる。皆は談笑しながら歩いているが、私は足裏に痛みがあった。痛み止め薬を飲んだが全く効かず、衝撃を和らげるために雪の上を歩いたり、力の入り方が変わるように後ろ向きで歩いたりした。とにかく耐えに耐え、皆から遅れること30分以上、ようやく駐車スペースに到着。足裏を見てみると、両足共に踵と指の付け根の皮が剥けてしまっていた。厚手の靴下が動いて擦れ続けたのが原因であった。長時間の林道歩きでは肌にフィットするインナー靴下を履いて摩擦を軽減させる対策が必要であることを身をもって学んだ。
今回は春山合宿の下見を兼ねていたので、しっかり現地の情報収集もできた。南アルプス南部はアクセスが良くないが、人工物も少なく大自然を堪能できるので是非お薦めしたい。

(記 オヨシ)

会山行B隊 赤岳天狗尾根~ツルネ東稜

期 日:2020年2月8日~9日
参加者:Lみの、オヨシ

2月8日(土)曇りのち晴れ
相模原(10:00)=松川IC=美しの森駐車場(12:30)-天女山分岐(13:30)-本谷下降点(14:10)―出合小屋(15:20)幕営

私が入会して間もない一昨年の冬、例会報告で耳にした『八ヶ岳の天狗尾根』という響き。当時はどのような尾根か詳しくは知らないが登ってみたいという衝動にかられたことを今でも覚えている。暁ではここ数年で天狗尾根に二度アタックしている。

2016年3月(ナベタケ、コバヤン、ガク)
2018年2月(ガク、みのさん)

いずれも完登されているが、記録を見る限り、一筋縄ではいかなかったようである。今回の山行では経験者のみのさん先導で挑戦することになった。

昨年の10月にも訪れた赤岳・真教寺尾根の麓である美しの森駐車場から始まる。初日は出合小屋までの行程としたので登山としては遅めのスタート。広々とした駐車場には先行パーティーのものと思われる車が5台ほど停まっていた。冬は営業していない観光案内所裏手の舗装路を西に向かうと、すぐに川俣林道へと入る。今年は雪不足のため林道にはあまり雪は積もっていない。数ヵ所ある分岐付近には道標や看板があるので積雪が多くても迷うことはない。林道の半ばを過ぎた辺りで天狗尾根が見えてくると気分も高揚してくる。

林道から見える赤岳

林道は川俣川に近いので何ヵ所か支流を渡渉する。林道の終盤は樹林帯で、抜けると辺り一面が雪で覆われている地獄谷に到着する。

林道の終点、地獄谷

そこから先は5つの堰堤があり、左岸もしくは右岸のハシゴや階段で越えていく。間もなくすると、初日の目的地である出合小屋が見えてくる。

ぽつんと出合小屋

小屋は2~3テンを5張りくらい設営できる広さだが、既に大部分が使われていた。一番奥に2テンがギリギリ張れるスペースが残っており、そこに設営した。

テントで込み合う小屋の中

翌朝は日の出前に行動開始予定であったので、30分ほど周辺を偵察することにした。仕度を終えたみのさんは一足先に行き、暫くして私も後を追った。小屋から数十mのところに分岐があり、左手が地獄谷本谷(ツルネ東稜)、右手が赤岳沢に通じる。赤岳沢への道を進むと渡渉が数ヵ所あるので早朝は気を付けねばならない。暫く進むと沢の左岸に到達、赤布が見えるそこが天狗尾根への取り付きである。しかし、トレースが沢沿い方面や直登方面へと数本付いており紛らわしい。赤布もそれぞれの方面にあるため、単独行動での偵察はここまでにして小屋へ引き返す。分岐まで戻ると、本谷方面から10名ほどのシニア中心のパーティーが下りてきた。装備からアイスクライミングを楽しんでいたようで、小屋にテントを張っていたのも彼らであった。間もなく、みのさんも本谷方面から下りてきた。日も暮れてきたのでテントに入り夕食と宴の準備。美濃戸でアイスクライミングをしていたA隊が予定時刻を過ぎても行者小屋に着いていないとの連絡があり心配したが、体調がすぐれないメンバーがいて時間を要したとのことだった。一方、出合小屋では例の大人数パーティーが盛り上がっており、遅くまで騒いでいた。我々は翌朝3時起床なので20時に就寝した。

2月9日(日)晴れ
出合小屋(4:20)-カニのハサミ(7:20)-第一岩峰(8:00)-第二岩峰(9:00)-大天狗(9:20)-天狗尾根ノ頭(10:40)-ツルネ南峰(12:00)-出合小屋(14:40)-美しの森駐車場(16:30)

3時過ぎに起床、周りのテントはいびきの大合唱だった。朝食のラーメンを美味しくいただき、身仕度を整える。昨日最後に小屋へ入ってきたご夫婦パーティーも我々と同様に早朝出発のようだ。月明かりもなく、ヘッドライトを付けても視界が悪い。

暗闇の中、行動開始

昨日の偵察を思い返しながら、天狗尾根の取り付きまでは踏み抜きに注意しながら進む。取り付きに到着し、複数あるトレースの中で一番はっきりしていた沢沿いに向かうが、数十mでトレースが消えた。気を取り直して直登方面へ進む。雑草の上に雪がついているため滑って登りづらい。赤布の間隔が広いためか、先行者の道迷いで付けられた分岐トレースが相当あった。方位や地形を確認しながら暫く樹林帯の中を進む。取り付きから1時間ほど経つと左右が切れ落ちたナイフリッジに出るが、暗闇で周囲の様子が全く確認できない。

注意してナイフリッジを歩く

6時を過ぎると徐々に明るくなってきたが、まだまだ急登は続く。出発から3時間で岩稜帯に到着、カニのハサミが見えてきた。

カニのハサミ

確かにハサミ以外のネーミングが思い浮かばないフォルムだ。ハサミの間を直登することもできるようだが、我々は登ることなく左から巻く。続く10mほどの岩壁はダブルアックスで難なく登る。間もなくして一つ目の核心部である第一岩峰に到着。ここは岩壁を直登して稜線に抜けるルートと右手方向にある残置ロープを使ってトラバースしてから30mほどのルンゼを登るルートがある。今回は後者を選択。草の上に積もった雪はしまっておらず、トラバースすら不安を感じる。みのさんが先に行き、私は残置ロープ終端の立木でセルフビレイを取って待機した。

中央付近に見えるのが残置ロープ

ルンゼの頂上にある立木から40mロープを降ろしてもらう。みのさんから合図があったのでセルフビレイを解除してルンゼに向かうが、ロープの末端がどこにも見当たらない。見上げると5mくらい上の出っ張りに末端が引っ掛かっていた。慎重に登って末端に近付くが、足元が安定しない。さらに末端だと思ったものはロープの途中がU字になったもので、末端そのものはさらに5m上にある。ひとまずロープのU字部分を手に取り末端を引き下ろしたところ、急にロープが上がり始めた。どうやらみのさんが引き上げの合図を送ったと勘違いされたようだ。ルンゼで私の身体は反っており、焦ってストップの声も出せない。何とかハーネスにロープを括り付けカラビナで補助的に固定するのがやっとだった。第一岩峰を登りきり、安全な場所でロープを外す。みのさんからロープの取り付け方がおかしいことを指摘されたので事情を説明した。声で合図を送ることが基本だが届きづらいときもあるため、代替手段も事前に擦り合わせておく必要がある。ロープを片付けていると小屋で一緒だったご夫婦パーティーが登ってきた。我々は邪魔にならぬよう先を急いだ。
続いて5mほどの岩峰が立ちふさがる。無積雪期ならロープなしで直登もできそうだが、今回は右から巻くことにした。足元の雪が想像以上に緩く、切れ落ちた右手側に寄らないよう慎重に進む。無事に通過すると、その先には第二岩峰と大天狗がそびえ立つ。

第二岩峰(左)と大天狗(中央)

第二岩峰は右から巻けるので難易度は低い。

第二岩峰を右から巻く

次はいよいよ大天狗、二つ目の核心部である。ここは岩壁を直登して大天狗の頂上を目指すルートと右手に少し下りながらトラバースして東側の狭いバンドに上がるルートがある。今回は後者を選択し、雪面をトラバースしてバンドの下に向かう。体感的にはほぼ垂直の岩壁を10m近く登らねばならず、万が一踏み外すと相当な距離を滑落しそうな場所である。まずはみのさんからアタック。思ったよりアックスの引っ掛かりが悪く、一手一手慎重に登る。少しハングする箇所があり一瞬ヒヤッとする場面もあったが、無事にバンドに到達。すぐに支点構築しロープを降ろしてもらう。安全確保されているがアックスが頼りなく、今回の山行で一番恐怖を感じた。バンドに到達して安堵したが、肝心のセルフビレイを取り忘れていた。いかなるときも気を緩めてはならない。小天狗を過ぎた辺りの開けた場所で一休み。大天狗と小天狗の間から富士山が見える、なんとも言えぬ絶景だ。

大天狗(中央)と小天狗(左)と富士山

しっかり腹ごしらえをして登山道への合流点である天狗尾根ノ頭へ向かう。

天狗尾根ノ頭へ

登山道に合流

天狗尾根ノ頭から先の登山道は、キレット小屋手前まで急峻なルンゼの下りとなる。歩きづらいだけでなく、下から強風が容赦なく吹き上げてくる。小石混じりの風が身体を叩きつけ、目も開けづらい。

急峻なルンゼを下る

キレット小屋の近くまで来ると風は穏やかになる。そこから樹林帯を登り返すとツルネの北峰と南峰にたどり着く。

樹林帯の先がツルネ

ツルネで記念撮影

後日談だが、C隊が赤岳から天狗尾根を見下ろした際、我々の想定ルートにトレースがほとんど見えなかったので心配してくださったようだ。
ツルネ南峰から先は東稜を下って出合小屋に向かう。ここからはみのさんに代わって私が先頭を歩く。

ツルネ東稜を下る

ツルネ東稜には支稜がいくつかある。特に右手の旭岳との間を流れる上ノ権現沢に下る支稜に入ってしまうと急峻な登り返しに難儀すると聞いていた。強風でトレースはかき消されているので先まで目を凝らす。

道標が見えるとあと少し

1時間ほど進むとしっかりした道標が現れ、そこから15分でツルネ東稜の取り付きだ。

ツルネ東稜の取り付き

出合小屋までは再び踏み抜きに注意して歩く。出合小屋に到着、あれだけ混み合っていた小屋の中はほぼ空っぽで、天狗尾根に向かった我々とご夫婦のテントだけが寂しそうに残されていた。手早くテントを撤収して装備もザックに片付け、前日通ってきた林道に沿って美しの森駐車場へ向かう。時折、後ろを振り返って天狗尾根を眺めて余韻にひたる。1泊2日の工程で余裕をもって挑むにはパーティーの人数は2名がベスト、多くても3名であろう(しっかりメンバーシップが築けていることが前提)。来シーズンにパートナーを連れていく約束をしているので、この1年はしっかりロープワーク技術を磨き、安全にリードできるよう経験を積み重ねていこうと思う。

(記 オヨシ)